翌日。ファラの家の前。
あの後、奇妙な格好をした一行とミリアムとアイシャはファラの提案に従って、彼女の家に泊まった。
テレーズは娘が帰って来たことに感激し、そして腕を振るって豪華ではないが、美味しい食事を振舞ってくれ、そして
「狭い所ですまないねえ」といいながら、寝る場所を用意してくれた。
疲れ果てていた一行は皆昼近くまでぐっすりと寝りこみ、そして、これから再び旅立とうとしていた。
ジャミルとダウドはアイシャをタラールの村まで送りに、グレイ、ホーク、アルベルト、ミリアムはクリスタルシティに。
ファラとその母は旅立つ一行を家の前で見送る。
「本当に有難うよ。感謝の言葉もないよ」
ファラの母、テレーズは感謝しても仕切れないといった様子だ。
一体何度目のお礼だろう。アルベルトはふと思った。ちなみにそれを数えるのは20回を超した所で放棄した。
「皆、行っちゃうんだね。さみしいな」
ファラはしょんぼりしたように言った。そんなファラを元気付けるようにミリアムは言う。
「また、すぐ帰ってくるよファラ。その時は一緒にマジカル★エスタミルのケーキを食べに行こう!」
「お世話になりました。食事美味しかったです。料理とは金をかければいいというものではないのですね。初めて知りました。」
アルベルトはテレーズに対し礼儀正しくもかなり失礼な事を言い、
「じゃ、ファラ、すぐ帰ってくるから、心配すんなよ!」
ジャミルはファラにむかって何度目に成るか分からぬ言葉を調子よく言い、アイシャは別れを惜しむように言う。
「有難うファラ!楽しかったよ!また、合えるよね!」
それはアイシャの本心であり、ファラもまた友達になったのだから、きっと又合えると何の根拠もなく、思った。
「ジャミル、アイシャ、ダウドさん、お元気で」
アルベルトは自分達とは違う所に向うジャミル達に別れを言うとジャミルはお調子者らしい返答をした。
「おう!そっちもな!また合えるといいな!」
ミリアムはそんなジャミルを横目に内緒話をするようにアイシャに耳打ちをした。
「アイシャ!その二人は頼りなさそうだから気をつけるのよ!」
「うん!ミリアムも!今度近くによったら遊びにきてね!」
アイシャの「うん!」は軽くジャミルとダウドを傷つけた。が、悪気はまったくないので、アイシャはまったく気にも留めなかった。そして、自分の家にいつか皆がきてくれたらいいな〜と軽い気持ちで希望を述べた。
「そうだね!今度ガレサステップの遺跡に行く時にいくよ!!ガラハドも連れてね!ね、グレイそうしよう!」
ミリアムもまた、軽い気持ちで応えた。家にいるより、旅に出ている時間のほうがはるかに長いのである。いつかはガレサステップによる事もあるだろう。グレイもそれぐらいの気持ちでミリアムとアイシャに言った。
「そうだな。その時は寄らせてもらおう」
「わあ〜い!待っているよ」
飛び跳ねながら喜ぶアイシャはまったくもって人攫いに攫われ、見知らぬ土地に掘り込まれた悲劇の少女と言う感じは受けない。
そして、最後にジャミルがもう一度ファラに約束をする。
「じゃあなあ。今度は綺麗な指輪持ってかえってくるぜ!楽しみにしてろよな!」
ミリアムは「指輪」と言う単語に着目し、からかってやろうかと思ったが、止めた。
指輪を女性に送る意味を果たしてジャミルが分かっているかどうか・・・
そして、ひとしきり騒がしい挨拶がおわると皆それぞれの方向に去っていった。
ファラは祭りが終わった後のような寂しさを感じながら、いつまでも見送っていた。
そして、ふいに涙が頬を伝う。それを止めることが出来ず、後から後から涙があふれた。
二人が必ず帰ってくることを信じることが何故か出来なかった。
エスタミルのアムト神殿で一人の女が祭壇の前で跪いていた。
赤い服を纏った漆黒の髪の女性だ。
「アムトよ、慈愛の神アムトよ、私の罪は私がうけましょう。だから、あの子はお守りください。」
短いが熱心な祈りを捧げると、足早に去っていった。
アムトの神官はその女の一連の行動を見守っていた。
立ち去るのを確認すると、厳かな調子で呟いた。
「母が子を思う。それは偉大な愛。それは生命が続く限り絶える事の無い愛。」
それは神官の声ではなかった。もっと天から響くような声だった。
「でも、私は子供を生んだ事はない、その愛の本当の意味が分からない。私は貴方が羨ましい。シェラハ」
神官の体を借りた何者かは、その女性の後ろ姿をずっとながめ、彼女が出て聞くのを見届けると依り代となった器から静かに去った。
完結
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やっと終わりました。
無駄に長くてすみませんでした。